老いも若きも18号|無農薬梅の販売活動

老いも若きも18号|無農薬梅の販売活動

梅干づくりに生きて

 

梅干を漬けはじめたのは、食品添加物の研究で有名な故郡司篤孝先生のすすめでした。

 

先生がご紹介くださった消費者のグループだとか、良い品を扱っていると信用ある商社が買ってくれました。

 

商社は始めの年700㎏の注文、翌年は1トン500kg、次の年は3トンというふうに、倍々の注文でしたから拙宅の梅だけでは足りませんでした。

 

それで積極的に有機栽培というやり方ではありませんでしたが、手入れもせず放置していて結果的に無農薬栽培になっている龍神村の梅農家に声をかけてわけてもらいました。

 

 

地元の協力農家

 

農家の間に口コミで「寒川さんところで梅を買ってもらったら高く引き取ってもらえる」という噂がひろがり、生産農家が増えていきました。

 

いろいろな事情で沢山漬け込まねばならないはめになって規模を大きくするつもりは全くなかったのですが、仕方なく取引量が増えてきました。

 

別のある商社が、お宅のような梅干だったら来年は数トン買うから漬け込んで欲しいと依頼されましたので、漬けて梅干を作りましたら、実際の買上げは始めの話の1/3の量でした。

 

今なら商売って思惑と実際とは違うということもわかってきましたが、その時は騙されたと思いました。

 

私は娘時代は弱くて闘病生活ばかりで勤めたことも働いたこともありませんでしたし、夫も若い頃は弱くてこれまた闘病生活と、林業・農業の家業だけの体験でしたから二人とも世間の風に当たったこともない無菌状態で育った大人のようなものでした。

 

こんな二人を騙すのはわけのないことだったでしょう。

 

けれども私達には食養を通じて得た哲学がありましたし、人の生き方であるとか、義理人情といった昔かたぎの気質は持っておりました。

 

このことはご先祖様に感謝しなければいけないと思っています。

 

経験は豊富な程良いとはおもいますが、経験がなくても人は本を読んだり他人の体験を聞いたりして参考にすることが出来ます。

 

今まで生きてきた六十年間を振り返ってみましたら、よくまあここまでたどり着いたものだと冷や汗をかくような人生ですが、失敗をすればしたで、なぜ失敗したのかと反省をするきっかけにもなります。

 

そうする事が失敗を単なる失敗に終わらせないでそこから新しい出発にすることさえ出来ると思います。

 

 

売り込み

 

生産農家の期待もあり、商社の見込み違いの注文等があって販売能力以上の梅干を造ってしまったとき、生まれて初めてセールスをやりました。

 

東京へ昔の食養仲間を訪ねていきました。

 

鞄の中に梅干の見本を入れて東京駅へ下りたとき涙が頬を伝いました。

 

なぜこんな苦労をしなくてはならなくなったのかと思いました。

 

右も左も知らない人ばかり。

 

知人を訪ねていき、梅干の見本をカバンから出したときは言葉も出ない有様でした。

 

訪ねて行ったのはオーサワジャパン社長の田中波留子さんでした。

 

田中さんとはサナラント時代、一年間寝食を共にした同志であり、私に食養料理を教えてくれた恩人でもあります。

 

あの時から別れて三十年ぶりの再会でした。

 

お互いに年をとっていました。

 

私を見るなり「賀代ちゃん?賀代ちゃん?あぁ賀代ちゃんのお母さんが来たのかと思った。」と言いました。

 

そして見本の梅干の味見もしないで「賀代ちゃんがこしらえたものなら絶対大丈夫。」と言ってくれたのです。

 

その時パンパンに膨らんでいた風船に針の先ほどの穴が開いたように気持ちが楽になりました。

 

夫は夫で僕は大阪で売り込みをしようと言って有害食品研究会の友人と一緒に自然食品店廻りをしました。

 

無農薬の梅にはハンテンやら虫食いのキズがあります。

 

今は外観の悪いものはエキスやジュースに廻しますが当時の製品は梅干のみでしたから、梅干の外観も随分悪いものでした。

 

「いくら無農薬・無化肥の梅を自然塩で漬けてるといっても外観が悪いと売りにくいよ。少しくらい消毒してもわからないと思うから1、2回消毒して外観をよくしてほしい。」と言われることが度々あって、その度に「消費者がそんなことを言ったらその考え方こそ間違いであると啓蒙する立場にある人間がなんということを言うのだ。そんな考えの人にはうちの梅干はよう売らん、買うていりません。」と啖呵をきって出てくるので梅干は少しも売れませんでした。

 

夫の売り込みの状態を聞くにつけ「この人の天職は農林業であって商売は向いていないなぁ」とため息が出ました。

 

 

平成10年1月発行

 

寒川 殖夫・賀代

 

 

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