現場体験研修レポート

松下政経塾研修レポート

現場体験実習報告/松本大輔/松下政経塾卒塾生(22期生)

 

 

 

7月9日から28日まで、和歌山の山奥で昔ながらの梅干を作っている(有)龍神自然食品センターにて現場体験研修を実施した。

 

当社の売りはJAS規格をクリアした「有機」の梅干を製造販売している点にある。

 

無農薬無化学肥料で自ら1500本の梅を栽培しており、収穫された梅は契約農家からの購入分も併せ赤穂の天然塩で塩漬けされたあと、天日干しされ、同じく無農薬無化学肥料で自家栽培したシソで色付けして出荷される。

 

こうした完全無添加の工程で生産されるここの梅干は全国に数多くのファンを持つ。

 

NPO「良い食材を伝える会」を主宰する料理研究家:辰巳芳子氏とも親交があり、生産者の育成指導と産地の支援活動を目的に同氏が結成した「確かな味を造る会」の会員会社にも名を連ねているなど、自然食品業界では独自の基盤を築き上げているといえる。

 

当社は田辺市から車で約1時間、紀伊山中の鮎つりスポットとして有名な日高川の清流のほとりに位置している。

 

当然のことながら付近(龍神村)の大部分は山林であり、林業が振るわなくなった今日、温泉客・釣り客を泊める旅館を除きめぼしい産業のないこの村では異色の存在である。

 

ウェブサイトによれば65歳以上人口が33.7%ということであるが、確かに観光客を除き若い人の姿は稀である。

 

実際私が接した当社の従業員8人、及び非常勤のパートさん4人の計12人のうち、8人が60歳以上であった。

 

そうした8人の高齢者の内7人は女性であったが、当地で私が最も驚いたことの一つは彼女たちの「元気なおばあちゃんぶり」である。

 

お婆ちゃんなどといっては、大変なご叱責を賜りそうだが、彼女たちは毎日良く働き、そしてよく喋る。

 

やりがいのある仕事や生きがいといったものが彼女達の元気の源ではないかと思われた。

 

ここでの私の仕事は梅干をはじめとした梅製品作りに関わる一切の作業である。

 

下刈り(雑草の刈り取り)、鹿撃退用鏡付け、施肥、梅干し、シソの刈り取り~漬け込み、その他加工品の瓶詰め、ジュース作り、瓶の熱湯消毒、加工品のラベル貼り等様様な仕事を体験することができた。

 

当社の就業時間は男性の場合は朝7時前から夕方5時までとなっており、12時から1時間の昼休みに加え、10時と3時にお茶の休憩をはさむ。汗かきの私は毎日Tシャツを3枚近く取り替えた。

 

本研修の3要素の内、「現場に入る」、「体を使って働く」の2つは1週間で確実にクリアした。

 

「人の為に尽くす」ことができるかどうかが私に残された課題のように思えた。
 社長の殖夫さんは4人兄弟の末っ子である。

 

3人の兄と姉がいずれも20代で結核により他界されており、ご自身も高校時代までは体が弱かったらしい。

 

一方妻の賀代さんも結核に苦しんだ過去を持つ。

 

二人が結婚したのは今から43年前。当初は家業でもあり、当時まだ好調でもあった林業(杉・ひのき)を営んでいた。結婚後7~8年たったところで、朝日新聞に連載されていた有吉佐和子の『複合汚染』(新潮文庫)を読んだことをきっかけに自家用の米・野菜などの有機栽培を開始。(元々あった農地を有機化)

 

さらに2~3年後には奥さんが自然食品の店をスタート。食品添加物の研究で有名な故・郡司篤孝氏がその店に来店したことをきっかけに消費者グループとの付き合いが始まり、「完全無農薬の梅干がほしい」との声を受け梅干の生産を開始。

 

50歳にして林業から梅干屋への転換を行い当社を設立した。

 

無農薬梅を購入し梅干への加工を行うと同時に、それまで15年ほど自家用の米・麦の無農薬有機栽培を行ってきた経験を生かし、杉・ひのきを植えていた山を切り開いて梅の有機栽培も開始した。

 

梅の素人がそれも50歳で転身し、山林を切り開きつつカビ・鹿・資金難などの苦難を乗り越え、現在の約1500本をいう数まで梅の木を増やし、かつ「龍神梅」として現在のブランド力を築くに至るまでには、凄まじい忍耐力を要したことは想像に難くない。

 

有機への取り組みがご夫婦の健康問題に端を発していることもあってか、社長の梅への情熱には並々ならぬものがあり、それだけに従業員の方の仕事振りを見つめる目にも70歳とは思えぬ厳しさがある。

 

そのためもあってか、過去には退職を考えられた従業員の方も少なくなかったらしい。

 

時には取引先との間で激しいぶつかり合いもあったようだ。販路開拓に苦労されていた時期などは、奥さんは「社長は生産者としてはともかく、販売を行う商人としては向いてないのでは」と考えられたこともあったと、消費者向けの出版物の中でも告白なさっておられる。

 

現在も梅製品の卸先は、社長のこだわりを理解する自然食品販売会社に限られており、所謂スーパーなどに当社の製品が陳列されることは無い。

 

梅の仕入先も無農薬・無化学肥料を厳格に守る実直な契約農家に限られており、これに違反した梅を持ち込んだことにより、発覚後即座に出入り禁止を言い渡された農家もあるという。

 

強い情熱を持っているが故に、裏切りに対する怒りもまた激しくならざるをえないようだ。

 

そんな社長ご夫妻が泣いた。

 

研修の最終日に社長が私のためにインタビューの時間を取ってくださった。最後に「大輔、おまえが来てくれて本当に良かった。有難う」と涙を流された。

 

翌日は私が茅ヶ崎に戻る日である。

 

その日の朝、社長ご夫妻が私の宿泊する宿を訪ねて来られた。

 

今度は奥さんがまたもや私のためにインタビューの時間を取ってくださると言う。

 

奥さんは「結婚後しばらく子供が出来ずに苦労した。もともと体が弱かったと言うこともあって龍神に嫁いでからも体質改善の努力を積んだ。畑などの土の上では裸足で歩くように心がけていたが、あるとき社長のお母さん(お婆ちゃん)が、足を怪我するといけないからと自分のために藁草履を編んでくれたことがあった。
お婆ちゃんの体調が悪くなってからは亡くなるまで自分がお世話をしていたのだが、病に伏せっていながらもおばあちゃんは、藁草履を履いていれば私が元気でいられると信じ、藁草履に困ることが無いようにと200足もの草履を死ぬまで編み続けてくれた。」と涙を流しながら話された。

 

私はここに来ることが出来、本当によかったと思った。20日間の私の働きぶりをご覧になって、苦労しながら守り続けてきたご夫婦の信念が伝わったようだとお感じになられたのだろうか、或いは涙を見せられる相手と信頼されたのだろうか。

 

ともかく私の存在が彼らから何かを引き出し、すっきりさせてあげられたのなら、或いはおもりを一つ軽くして差し上げるのに役立ったのなら、「人のために尽くす」ことが出来たと言えるのではないだろうか?社長はまた、忘れ難い言葉を私に残した。

 

「運命と宿命とは違う。宿命とは宿る命と書き、生まれながらに持っていて自分の力ではどうすることもできないもの。これに対して運命とは運ぶ命と書き、自分の努力によって良くも悪くも変えられる後天的な人生である。」というものである。

 

グローバリゼーションやメガコンペティションの進展は不可逆的であり、競争力を持たない非効率な産業・企業をセーフガードの発動等で政府が保護し続けていくというのは、自由と公正さの確保(他企業・他業態の商売上のチャンスや利益を奪う)、消費者の利益という観点からも限界がある。龍神村とてその例外ではない。

 

然しながらたとえ小さな地方の企業であっても、理想へのこだわりは、内容の充実や他との差別化という長所をもたらし、都市部の大資本あるいは海外の安価な製品に対しても競争力・ブランド力の点で伍していくことは十分に可能である。さまざまなハンディを乗り越え、彼らは「運命」を切り開いたのである。

 

とはいえ、一般的にこだわりは、取り組むものへのたゆまない努力や強靭な精神力・忍耐力・意思力を要請するのみならず、時として行き過ぎによる独善を生みがちであることに注意する必要があろう。

 

あいつにはついて行けないと思われてしまっては理解者も生まれないし、結局苦労して作り上げた商品も世に出ない。

 

大事なのは自身が正しいと信ずるこだわりを伝える努力であり、理解してもらう努力である。

 

社長夫妻が優れていたのは良き理解者との出会いを無駄にしなかったこと、苦しいときも自身で各地を足で回り、販売先や消費者を引き付け繋ぎとめるための発信・対話を疎かにしなかったこと、今も社長自ら作業場に足を運び、自身の理念や事業に取り組む峻厳な姿勢を体でもって従業員に浸透させている点ではなかろうか。

 

さらに何より大事なことは、過去の健康状態故に、そうしたこだわりが、社長ご夫妻にとっては生きることと半ば直結したものであったという事実である。

 

理想の実現には信念が不可欠である。

 

しかしながら信念に基づいた行動はまた、独善とともに被害妄想を生むこともあろう。悲壮感を漂わせている人に、他人は好んで近づこうとはしないものである。

 

信念を形にするためには伝える努力を惜しむなと先に書いたが、なによりもまずその信念が真に自分の信じるところから出ており、本当に自分がやりたいことであり、心から好きだ或いは楽しいと言える何かに取り組むことでなければならない。

 

梅の仕事を続けることは、それ自体彼らの生きがいとなってきたに違いない。

 

社長ご夫妻の元にはアトピーなどに苦しむユーザーから感謝の手紙が来ることもしばしばであるという。

 

社長は他にめぼしい仕事もない村で高齢者を中心に雇用し、零細とはいえ実直な農家からは少量でも梅を買い取っている。

 

この意味で龍神梅は従業員や仕入先やお客さんに、そしてご夫婦自身に生きがいを与えた。

 

確固たる信念を持ちながら独善に陥らず、地道に愚直に信念を伝える努力を続けることは難しい。

 

しかしながらそれを超えたところに単なる理解を超えた感動があるのではないだろうか。

 

リーダーが人の心を揺り動かすとはそういうことではなかろうか。

 

政治を志すものとして、深く肝に銘じたい。

 

 

2001年7月 執筆

 

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