平素は弊社の製品をご愛顧頂きまして、誠にありがとうございます。
先日、お客様から「いつも購入している梅干よりも、黒い斑点が多い」と大変貴重なご意見を頂戴致しました。
送って頂いた商品を確認しましたところ、確かに弊社で生産している商品としては、硬くて黒星病が多いと感じました。
ただ、弊社の1kg丸樽に詰める商品の規格範囲としては、規格の範囲内であるという事をご理解頂きたく、お客様にお手紙を出させて頂きました。
完全無農薬の梅
弊社の農園は、他多くの有機JASや無農薬と違って、一度も畑に化学物質を入れた事はないのです。
これはどう言った意味かと申しますと、私どもも出来る限りの品質の向上と製品の安定を目指し、他の有機農法を実践している方の畑や、加工技術を学びに行くなど勉強させて頂いていますが、弊社のような農法や加工工程をとっているところが見当たらず、逆に驚いている次第です。(もちろんちゃんとしたポリシーを持ってやっているところもあります)
地元は梅の産地で、梅関係の仕事に従事している方が本当にたくさんいらっしゃいます。
その方々から、驚くような話を聞く事があります。
昨年で言えば、梅の収穫時期に非常に雨が多く、梅の実にスス病という病気が大量発生しました。
農薬を使って見た目がきれいな梅に・・・
スス病とは、青梅の表面に本当にススのような黒いカビが生えて、梅の見た目を非常に悪くする病気です。
こう言った場合、一般的には出荷前に次亜塩素ナトリウムの溶液に浸けます。この溶液に浸けてしばらくすると、梅の実は綺麗にピカピカになるのです。
今までも、農家さんは暗黙で使用していたのですが、昨年は全ての農家と言っても過言ではないぐらい沢山の農家さんが使用し、その廃液をそのまま川に流したのです。
それによって、昨年6月地元を流れる川の魚が大量に浮いたので、地元の新聞に掲載されたのですが事実関係がはっきりせず、その後はうやむやになってしまいました。
私が、ある東京のミシュラン2つ星の和食のお店の大将に青梅を送った後、「寒川さんに送ってもらった梅が黒ずんでいるのが気になって、実は築地で最高品質の南高梅を購入したんだ。
それで、寒川さんの梅と築地で買った梅をそれぞれ鍋で煮ていたら、今までは普通に買ってきた梅でも気にならなかったんだけど、築地で買った梅の湯気から薬品の臭いがするんだ。どうして?」とお電話を頂きましたので、「実は、その梅は次亜塩素の溶液に浸けているからですよ」とお答えしたら、「本当だ。ハイターの臭いだ」とおっしゃっていました。
それと「驚いたのは青梅を甘く煮たデザートを作ったんだけど、寒川さんところの梅と買ってきた梅の火の通り方が全く違うんだ。寒川さんところの梅は、表面から種の部分まで全く同じように火が通ったんだけど、買ってきた梅は一定に軟らかくならないんだ。いやー無農薬の梅とこんなに違いがあるとは知らなかった」とおっしゃって頂き、生産者冥利に尽きるとはこの事だなぁと感激致しました。
今年から次亜塩素酸については、JAや有機JASでも梅や野菜に使用してもよい事になっております。
私はよく老いも若きもにも書くのですが、消費者はやはり綺麗な物を求めるという事です。
私が所属している地元のソフトボールチームの、13名中6名が梅関係の仕事をしています。
その中の一人が、「コンビニなどからクレームがきたら大変だ」という話をしていました。
例えば、「今回のロッドの梅の色が悪い。梅の色の鮮やかさが足りない」というクレームが来たとします。
そうすると、メーカーはそれ以上の赤色色素をたくさん入れるんだそうです。
「そんな事をしたら成分が変わるんじゃない?」と質問すると、「中和剤を入れるんだ」と答えた後、「調味作業をやっている従業員は誰もうちの会社の製品を食べないよ」と言っていました。
幸い弊社は、製造した物や製品のハネでも、昼食や休憩で従業員が食べてくれます。
中には持って帰る方もいるのは、本当に嬉しい事です。
しかし、こんな話は本当に氷山の一角です。
地元ですから、これ以外でも知っている事実はたくさんあります。
ただ、私は他のメーカーさんを否定している訳ではありません。
農薬を使っている梅の怖さ
高レベルの品質管理や、例え農薬を使用したとしても使用量などを守り、この農薬を使うと木にどういったメリットがある、製品としてはこういうメリットがある。
というように、きちんと理念を持っている会社も、私はたくさん知っています。
その反面、「売上げの為、お客さんに分からなければいい」と言った会社が多くあるのも事実です。
どんな会社でどんな製品を作っているのか、消費者の方々に本当の事は中々伝わらない事もたくさんあります。
最近は、あまりにも情報が氾濫する中、本物とは何か?農作物とは何か?など余計に分かり辛くなって来ているような気がします。
私が二十歳過ぎの頃、父と母が梅の加工を始めました。
手伝い始めた当時、梅干を作れば作る程、パックや樽に詰められずに、10kgずつの樽に入れられて保管されたつぶれた物や、黒い斑点のある物が倉庫に山積みにされていました。
当時は今よりも製品になる梅が少なく、100kgの梅を漬け込んで、出来上がりで45kg。
そこから、見た目の悪い梅を選別すると、製品としてパックに詰められるのは、その半分の20kg~25kgがやっとでした。
少しずつ売れ始めてはいましたが、製品にならない物があまりにも多いので、置く場所が無くなる位倉庫にあぶれ経営状態は非常に悪く、父は手入れをし大事にしてきた、山林の木を売りながら資金繰りをしていました。
どれだけ赤字になろうが一切気にせず、一切化学肥料をやらず無農薬である事、他人が何を言おうが自分のスタイルを変える事はありませんでした。
私は、「これは何とかしなければ」と考え、友人から地元みなべ町の梅屋さんが製品にならないような梅を買ってくれると聞き、トラック一杯積み込んでその業者さんにお願いすると、あっさり「10kg200円で買うわ」と言われあまりにもショックで、「結構です」と断りそのまま持ち帰って来た時の、悔しかった気持ちを今でも忘れた事はありません。
そんな時、弊社の製品を少量ですがマクロビオティック食品として、輸出して頂いていた取引先の社長に相談すると、「私は今まで海外のお客様に、本当に一度も農薬を使用していない梅干を何年も前から頼まれて、和歌山県の色んな業者に依頼しましたが、低農薬ならまだしも、一度も農薬を使用しないなんて商品にならないと断られてばかりだった。こんな完全無農薬の貴重な梅干を作ってくれているのに私が何とかします。」とおっしゃって下さったのです。
後日、社長から種を抜いてペースト状にして欲しいとの連絡があり、「全量普通の梅干と変わらない価格で購入するから」とおっしゃって頂きました。
それからは、選別し製品に出来ない物は、そちらの会社がオーガニックの梅干ペーストとして、ずっと購入して下さっています。
そういった社長やお客様のご協力もあり、少しずつ経営的にも安定し今日まで歩んで来られたのです。
弊社の梅は、製品の安定というのが常に課題であるのですが、以前梅肉エキスを錠剤にするのを他社に依頼した時も、「龍神さんの梅は丸剤には出来ない」と言われた事がありました。
それは、ロッドごとにPH値、Brixなどが少しずつ違うからだという事でした。
その時、私は「それじゃあどうして他社はいつも同じなんだろう?」と疑問に思ってしまいました。
あるメーカーに勤める知人に尋ねると、原料は全てPH調整剤やBrix調整剤を使用しているとの事でした。
弊社の日高川を挟んでたった200mしか離れていない畑でも、実の付き方や花の咲く時期が微妙に違い、同じ品種でも梅の質もやはり異なります。
これを、高レベルの品質で統一するとなると、8割以上を捨てる事になってしまいますので、商品として成り立ちません。
無農薬梅の個性
私どもは、農作物は畑によって、どうしても個性があり特徴があるのだという事を、お客様に伝えていかなければなりません。
自然に近い程、その個性が出てしまうのです。
どうかご理解頂きたく、このようなお手紙を書かせて頂いた次第です。
以上が手紙の内容です。
これからも、皆様からの声をしっかりと受け止め、よりよい製品の開発、品質の向上に努めてまいります。
何卒ご理解と変わらぬご愛顧の程、よろしくお願い申し上げます。
平成24年6月18日
寒川善夫