しその栽培と天候の影響
毎年の天候の違いによって、しそ栽培に大きな影響があります。
今年は梅雨の前半は雨がなく空気も乾燥していましたが、後半になり雨が多く湿度が高く、気温も上昇してきました。
こういう年は雨水の影響でとにかく雑草が生えるペースが速く、草刈りや草引きが普通の年より除草する日にちの感覚が狭くなります。
雑草が生えるペースが速い年はしそなどの成長も早く、しそを積んでも新芽が出るペースも早まります。
逆に雨量が少ない年には、栽培方法も工夫して、しそに十分な水分を与えてあげる必要があります。
しその栽培には雨水と太陽の日差しが成長を助けてくれます。
やはり作物は適度な雨、それに日差しがしっかりあればよく育ちます。
しそは干ばつが続くと葉の繊維や、軸ががっしりとしていてもしその色や香りが適度な雨が降る年に比べれば品質は落ちます。
干ばつが続く年は、夕方太陽が沈むと水撒きをするのですが、やはりこの時期の夕立や雨が降るのには勝てず農作物を育てるのには、その年の天候はすごく影響が大きいのです。
逆にあまり雨が多いと梅は病気が付きやすく、農薬を使わない場合は見た目が悪くなります。
ですから、無農薬で栽培することで農作物は天候によって毎年毎年品質が変わるのが当たり前のことなのです。
これを均一化しようとすると、多量の農薬や加工時の薬品などに頼ることになります。
無農薬栽培で同じしそを作るのは不可能
よく私が農作物は一つ一つが違うのが自然で、全く同じものを作り続けるという事は不可能に近いという話をしますが、実際毎年同じものを作っても収穫していたら、今年の出来が良いとか、今年はちょっと虫が多いなとか、作物に含まれる水分が多かったり、少なかったりと毎年違うということを実感します。
毎年育つ天候によって違う味こそが、無農薬栽培の証なのです。
そういう意味で言えば、今年のしそは出来が良く香りもよく、揉んで梅酢につけると色も非常に華やかです。
昨年は雨が少なく、日照が強かったので、葉っぱに含まれている水分が少なく、揉んでも香りも弱く梅酢につけても今年のものに比べれば、色の濃さも鮮やかさも劣っていました。
お客様からすると、今年のものは去年より劣っているとか思うのでしょうが、その年にできたものは、私たちの中では、その年の最高のものを作ってお客様にお届けしているのですが、やはり品質の違いや大きさの違いを指摘されることもあります。
毎年最高の農作物を作るために、栽培方法をいつも工夫しながらもの作りをしています。
毎年最高のものをお客様に
この話を知り合いの料理人さんにすると、フランスとかでワインの醸造所がその年のワインを「今年の最高のものです」とお客様に出すと、お客様はそれを受け入れて美味しく味わうという話をしていただきました。
その料理人さんが言うには、日本などと違って、その年のありのままの出来栄えという意識が日本よりも理解があるのではないかというお話をされていました。
フランスにそういった文化があるかどうかは私にはわかりませんが、その話を聞いた時に梅酢の香りや色を見て、その年の天候を考えていただけたらなぁとつくづく思いました。
それにしその色や香りというのは、もんで梅酢に付けた直後は非常に華やかで綺麗なのですが、時間とともに色は濃い紫色から少しずつ茶色に変化していきます。
こういった色の変化は色素を使わなくても色素安定剤などで長時間にわたってきれいな状態を長持ちさせたりすることは可能です。
自然のままというのは、やはりずっと良い状態を保てないので、毎年収穫して新しいものを作って行かなくてはなりません。
自然の中で栽培していく楽しさをお客様にも味で伝えていきたいものです。
先日、東京の知り合いの料理人さんが龍神村に遊びに来た時に、たまたましそ畑で草引きをしているうちのスタッフを見て、しみじみと「こんなに手間をかけてしそを作っているのだ」とおっしゃり、感動していました。
「現場を見て本当に良かった。今まで梅酢をもう少し濃くしてくれなどと言っていたけど、これを見たらそういったことを簡単には言えないなぁ。」と言っていただきました。
しかしプロから見たり、お客様からの角度で見たときに品質の違いや、今年の出来などの感想を言っていただけるのは大変ありがたい事でもあります。
やはりこちらも自然の中で少しでも良い品質が毎年作れるように努力し、自然の中で安定した商品を作りたいと収穫のたびに強く思うのです。
(この記事は2017年に執筆掲載しました)