老いも若きも3号|梅肉エキスの作り方
梅肉エキスはこれまで夫の友人で長いお付き合いのある南部の中松さんに加工をお願いしてきました。
中松さんは昔ナタネ油をしぼっていまして、龍神でも稲のうら作にナタネを田んぼで栽培しましたので年に一回、日を決めて龍神へ上ってきていました。
その交換の場が納屋でした。
中松さんが加工したナタネ油はすばらしく、本当のナタネ色をしており、とろりとねばく天ぷらを揚げると衣が黄色くからりとして、いつまでもべったりとはなりませんでした。
時代が変わって、ナタネを作付けする人がいなくなり、ナタネをしぼる機械で梅をしぼりエキスの加工をはじめたのでした。
梅肉エキスの元祖のような人でした。
龍神梅では無農薬の梅肉エキスにこだわっていますし、一切まぜ物なしですから、中松さんのような良心的で素朴な人に加工をしてもられるということは、私共の主義にぴったりで喜んでいたのですが、何年か前から年をとったのでもう出来ないと言われ、ほとほと困っておりました。
そこを何とかと無理を言い人件費はどれだけかかっても仕方がないと、純粋な梅肉エキスにこだわってきました。
今まで何度もそんな無理を聞いてきてもらいましたが、それもお願いできなくなって、去年は機械だけを作ってもらい、当社の作業場で梅をしぼり梅肉エキスを炊いてみました。
梅肉エキス炊きというのは、聞きしに勝る重労働でした。
本当に大変な作業です
火を入れて炊き始めると3日間位炊き続けですから、徹夜の連続です。
他の従業員さんは昼間、梅の引き取りや、洗浄、漬け込み、出荷とてんてこまいなので、夜の火の番は夫と私の仕事となりました。
まわりが梅の仕事で目の廻るような忙しさですから、昼間もゆっくり熟睡することが出来ませんから、これにはまいりました。
しかし、何とか事故を起こさず無事に済み、やれやれと思った最後の日、ちょっとした油断から、夫が顔に大やけどをしてしまいました。
神経をピンとはっていたら避けられたことだったと思われますが、疲れていたのでしょう。
炊きあがった梅肉エキスの仕上がり具合を見るため、匂いを嗅ごうと大きなしゃもじですくい上げた熱い梅肉エキスを鼻や口のまわりにつけてしまったのです。
すぐに水道の蛇口に顔をもっていき、水で梅肉エキスを洗い流しましたが、ご存知のように梅肉エキスってねっとりしたものですから、なかなか落ちません。
そこを何とかと水をかけていますと、梅肉エキスが流れ落ちるのと同時に皮膚もはがれて真っ赤になりました。
私は仰天してしまいました。
火傷にはアロエがいいのだろうか考えながら、とにかく冷やせと思い氷をビニール袋に入れガーゼをぬらして包み冷やしました。
そしてアロエをしぼって、ガーゼにしみこませました。
日頃、手当法など自分では少し勉強してきたつもりでしたが、とっさになると、頭が全く働きません。
ふと広島の綿岡先生の事が頭に浮かび相談したら、火傷には馬油が一番とのことでした。
酸素を皮膚に浸透させると中から新しい直皮が出来て焼け跡にならないからと確信をもって言われました。
馬油の浸透性は抜群だとか。
それを信じて治療の方針は馬油一点ばりに決まりました。
馬油は純粋な混ぜ物なしを使用しなくてはなりません。
馬油が皮膚の奥まで浸透する時、酸素を供給し酸素不足を起こさないのでケロイドになるのを防ぐのです。
やっぱり食養が一番
日頃、食養を実行しているおかげで、怪我をしても、治りが早いという体質も良かったのでしょう。
そして、その日から自然治療の力を向上させるために、一滴の酒も口にしませんでした。
初めの2~3日は流れるように皮膚から透明な液体が出てズルズルでした。
夜など、寝ている間に枕もシーツもぬれていました。
顔は鼻から下は赤裸、見るのも恐ろしい程でした。
ケロイドになるか皮膚の色が変わるか、おそらく元通りになるのは難しいのではないか心配しました。
全治に60日位はかかるだろうと言われていた火傷が40日でものの見事に完治したのは驚きました。
「天は自ら助すくる者を助すく」とはこの事だと思いました。
それにしても馬油の効果は絶大でした。
馬油は家庭の常備薬です。
この事があってから、夫は蜂にさされても、虫にさされても馬油をぬっています。
身近なところにこんなにすばらしい万能薬があるのですね。
平成8年2月発行
寒川 殖夫・賀代