老いも若いも8号|林業の枝打ち

老いも若きも8号|林業の枝打ち

拙宅では先祖の代から林業で生計をたててきましたから、梅の生産加工を始めたからといって本業は林業であり、農業であります。

 

特に米づくり、野菜づくりは弱かった夫や私が健康になったそのもとであり、弱くて子供を産むなど夢の夢であった私が三人の子供を産み、しかも母乳で育てることが出来たことだけを取り上げてみても、生活の中で最も大切にしなければならないことであります。

 

最近では林業の業界が不振で働いてもそれだけの見返りがないといわれて若者の林業ばなれが進んでいます。

 

特に枝打ちといって杉や桧の枝を打ちはらう作業の出来る人は現在少なくなりました。

 

無地の二階柱を育てられる人は龍神村に何人もいないでしょう。

 

その数少ない人の中に夫が入ります。

 

先代から大切に育ててきた山を譲り受けているのですから、先祖の思いをこちらも守り続けていく義務があるでしょう。

 

重労働でも地上での仕事なら体が安定していますから危険度は少ないでしょうが、高い木に登って不安定な足元での作業は一歩間違えば大けがにつながりかねません。

 

単調な仕事は根気もいりますし、山に対しての並々ならぬ愛情あってのことです。

 

営々黙々と努力を積み重ねることが出来るのは先祖に対しての感謝の気持ちと同時に、子や孫に対しての愛の心なくして出来ることではありません。

 

それをしなければ生活に困るというわけでもなく、ましてや今打った木が立派な二階柱やすぐれた床柱になるには、これから何年も何十年も先になるでしょう。林業は息の長い仕事なのです。

 

それが自分の口に入るかどうかそんなことは全く意に介さず、淡々として日々仕事に励む夫なのです。

 

この努力、精進の原動力になっているもの、それは心の底からの家の繁盛、子孫の繁栄を願う親心にほかありません。

 

 

やっぱり食生活が大切

 

山をつくっといてやったら、いざという時あの子等の役に立つ。

 

まさかの時、あの子らが助かる。

 

梅があかん時従業員さん達の足りになる。

 

そんな熱い思いが夫をば山へ駆り立てているのです。

 

思いはあってもそれを行うには、体力が伴わなくてなりません。

 

実行できるのは食生活に気をつけているからであります。

 

自給自足の生活を理想とし、無農薬有機栽培の米をはじめとして、野菜類を自家製の醤油・味噌で味付けし、穀類は精白しないこととする。

 

そんな昔ながらの食生活が昔の人がやってきたような労働(には足元にもおよびませんが)に対して少なくとも続けていけるだけの体力が維持できているのだと思います。

 

 

人生は区間のランナー

 

夫は常日頃「先祖からバトンを渡されて、次の世代にそのバトンをタッチする僕は区間のランナー」だと言っておりまして、全力でその区間を走り続けていると思います。

 

余りにも思いが強すぎて時には子供に理解してもらえないこともあるでしょう。

 

”親の心子知らず”はいつの時代でもあることで、子供もある年齢に達したら自然とわかってくることでしょう。

 

要は自分の人生を自分自身がいかに納得して生きていくかであり、自分の人生に誇りが持てるかであります。

 

 

夫に感謝して

 

”老いも若きも”に林業が登場しましたのは、先日お越しになりました辰巳芳子先生に夫が梅畑をご案内いたしました時、ついでに自分が手入れした山も見ていただいたわけです。

 

見上げるような高い木々が見事に枝打ちされておりまして、皆様ため息をつかれたそうです。

 

後で先生が私に「あなたご主人はもう六十六才なんですよ。六十六才にもなってあんな危険なお仕事は無理なのでは」と心配されたことでハッ!と思ったのでした。

 

当たり前だと思っていたことが、当たり前ではなかった。

 

大変な努力精進の結果なのであることを再認識したのでした。

 

平成8年9月発行

 

寒川 殖夫・賀代

 

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