老いも若きも22号|梅干しのカビの原因
梅干しをつくりはじめて
梅干をつくりはじめて何年になったのだろうと指折り数えてみましたら、今年で二十二年目になっていました。
いつの間にか二十二年という歳月が流れていてびっくりしました。
無我夢中の二十二年でありました
今も大変ですが、あの頃は先が見えなくて、右へ行ったらいいのか、左へ行けばよいのかわかりませんでした。
それに低塩ということにこだわっていましたから、梅干にカビを生やして随分捨てました。
無農薬で栽培している農家から梅を買い上げましたが、その頃は選別を厳しくしていなかったので、製品にならないものが沢山出来ました。
素人の大胆さと言いましょうか、随分思い切ったことをしてきたものです。
過去に病弱だった私に現在の健康があり、子育てが一段落したので何か社会にお役に立ちたいという熱い思いだけが先行していましたが、思いは結果としては出なくて随分涙をのんだものです。
始めに龍神梅干を世に出して下さったのは故、郡司篤孝先生でした。
横浜土を守る会の浅井まり子さん達をご紹介くださって輪が広がっていきました。
当時、製品にカビが出たことがありました。
買って頂いたお客様にカビがでる恐れがあるということを連絡しましたら、北海道の片垣基さんがお電話を下さっていつも元気な殖夫さんの声があんまり沈んでいるので、どこか身体の調子が悪いのではないかとわざわざお尋ね下さいました。
今思い返してみますと大勢の皆様が龍神梅をあたたかく支援下さったなぁと感謝の気持ちで一杯です。
問題は次から次へ
一つの問題が解決すると、また別の問題が起こりました。
解決しても解決しても、これで良いということはありませんでした。
カビ一つとりましても、タルを土の中に生け込んだり、建物を風通し良くしたり、タルの底に空気を送って梅酢を循環させてみたり、毎年工夫を重ねてきました。
最近では品質も安定してカビの心配は全くありませんが、出来上がった製品を置く倉庫の温度は夏二十五度以上にならないよう、管理しています。
これはカビが心配だからではないのです。
梅干は常温で何年でも大丈夫なのですが、室温が三十度以上になりましたら、梅干の中に含まれているクエン酸が結晶して表面に出てくることもあるのです。
梅干が白くなりますので、まるで塩がふいたようになるのです。
それを防ぐために温度管理が必要なのです。
最近では梅の干し方や干し加減もクエン酸の結晶と関係があることがわかってきました。
大切な梅を我が子のように
無農薬・無化肥だけではなくて無添加で製品を仕上げるということになりましたら、まるで赤ちゃんを育てるように、梅干を育み守る、といった愛情が必要なのでしょう。
よく龍神梅はおいしいといわれますが、それは梅そのものの味を生かしているからだと思います。
物にはすべて持ち味がありますが、変にいじくり廻さずに梅の持味を生かすことが大切なのでしょう。
そしてそれは百姓仕事にも料理にも共通して言えることではないでしょうか。
本当にうまいものは素材がしっかりしていると思います。
今後ますますおいしくて健康増進に役立つ梅干づくりに励むつもりですが、その第一は梅の栽培に力をいれることだ、と夫が申していまして梅畑の手入れに余念がありません。
奥深い百姓仕事
百姓仕事を一口に言いますが、これまた奥の深い仕事でありまして、これで良いということはありません。
梅と共に泣き、梅と共に笑った二十二年間でありました。
普段は仲の良い夫婦でありましても、梅づくりに関しては夫としばしば意見が対立しました。
夫は竹を割ったように真っ直ぐな人、そして若い頃カンテキとあだ名がつく位激しく陽気な人。
私は陰性ですぐ涙を流すコッテ牛。
この性格の違う二人がこと梅に関しては、お互いが譲らず随分とやりあったものです。
カンテキとコッテ牛がぶつかると時には、火花を散らす程にもなりましたが、それも昔の話。
今はお互いに気心が知れたのか、それとも梅の仕事が曲がりなりにも、軌道にのっているのか、はたまた年を重ねて円熟?になったのか、白熱した議論を交わすことも少なくなりました。
考えてみると心の底から意見をぶっつけられる相手が居るということは倖せなことだなぁと思うこの頃です。
そして龍神梅に関しては、時には意見の衝突もまだあるであろうことを予想しながら、今後も仲良く頑張っていきたいと思います。
注:カンテキ(方言で七輪のこと。カッカすること。)
寒川 殖夫・賀代